復興支援助成金

日本の地方全体への
モデルケースを
ISHINOMAKI2.0

Focus32

当財団は、被災地の復旧・復興支援活動を行うNPOや社会福祉協議会などへの助成金制度を実施しています。助成先の一つ、「ISHINOMAKI2.0」の松村豪太代表理事に、活動を始めたきっかけやこれまでの活動内容、今後の抱負などについて聞きました。

東日本大震災の被災地・被災者への復興活動を開始した理由、きっかけを教えてください。

震災前、石巻で総合型地域スポーツクラブのクラブマネジャーをしていました。震災のときには海岸から3㎞離れた店にいましたが、津波は店から50mの北上川側から押し寄せてきました。幸い2階に上り難を逃れましたが、津波が町に浸水してくる状況を目の当たりにしました。
ISHINOMAKI2.0はボランティアを通じて知り合った仲間が始めた活動です。建築家、料理人、IT関係者など、それぞれの専門能力を活かし、石巻を震災前の状態に戻すのではなく、魅力ある街にバージョンアップさせて復興していこうと、2011年5月に活動を始めました。
多くの方々のご支援を頂きましたが、石巻の町の方々にも助けられました。震災前、実は石巻という街に不満を持っていました。商店街はシャッター通り、楽しめるものがほとんどない、閉鎖的、物事は一部の人で決まっていく、などなどです。震災をきっかけに商店街の方々との出会いや交流が生まれ、改めて地元の方々のすばらしさと魅力に気づかされました。それまでは自分のほうが壁をつくり、町の方々と交流してこなかったこと、楽しくしようと努力していなかったことに気づきました。

これまでどんな活動をされてきたのですか。

地元の方々を交え、新しい石巻をつくる挑戦をしてきました。『闇鍋』と呼んでいた集会では、意見をオープンに出し合い、できることからプロジェクトベースで進めてきました。プロジェクトの実行には、基本的には言い出しっぺが責任を持って進めます。
一例をあげると、外部の方々を呼び込み、観光という切り口からもまちづくりを進めています。石巻には震災があった2011年にはボランティアだけで28万人が訪れました。外部の方々の目を通して、今までは気がつかなかった魅力にも気づかされました。一方、外部の方々にとっては古い建物の形、漁網の種類などもめずらしく、楽しめるものだということもわかりました。

積極的に協力してくださる中に、かめ七呉服店のご夫妻がいらっしゃいます。空き家をボランティアの宿泊施設に提供してくれました。ボランティアの手で滞在できるように改修。1年で約2,000名が利用しました。また、呉服店の1階は津波が入りましたが、2階にあったご主人が集めた雑誌は無事でした。ボランティアに参加した雑誌編集者が、この価値に気づき、雑誌協会に働きかけ、1階スペースを雑誌コレクションを展示したコミュニティスペース『コミかめ』に改修しました。
ISHINOMAKI2.0の事務所がある『IRORI石巻』も、コミュニティの拠点として誰でも利用できるスペースです。また、町の空きスペースを利用して夏の間だけテントで寝泊まりしてもらう『まちキャンプ』も実施しました。
復旧・復興活動に追われ、情報発信が難しい石巻の方々に代わり、観光客や視察に訪れる人、ボランティアなど外部の方々に観光のポイントや食・文化・地域の生活を伝える冊子をつくっています。石巻にはリアス式海岸、魅力的な浜、豊富な海の幸、温かい人柄などPRするものがたくさんあります。編集委員10名が中心となり、総勢約20名が関わっています。この冊子の製作を通じて編集スキルが身に付くことも成果の一つです。今後は販売を予定。取材協力してくれたNPOなどには安く卸し、利益を活動資金にしてもらいます。
今後は、観光・産業・教育・まちづくりの4つを柱に、活動を継続していきたいと考えています。“観光”では、冊子づくりなど石巻の魅力をPRし、外からの人を呼び込む。“産業”の取り組みとしては、姉妹プロジェクトの石巻工房が木工製品を製造販売。団体理事の女性建築家は木造家屋を改修した、週末限定の日和キッチンも始めました。“教育”については、高校生を対象に町の未来を考える『いしのまき学校』や、ウェブデザインやソフトウェア開発を学ぶ『イトナブ石巻』を行っています。“まちづくり”では、石巻市から地域自治システムの委託を受け、町内会の自立支援をしたり、コミュニティスペースの運営、外の人と石巻の人、また石巻の人同士の交流を図っていきます。

ご苦労されたのはどんな点ですか。被災者の言葉など、印象に残っていることは?

可能なことはできるだけ実現させるようにしていますが、活動が多岐にわたるので事務局機能に負担がかかります。もう少し人が増やせればと考えています。
観光ガイド冊子では、ご当地ヒーロー対談のコーナーを担当しました。実際はまちづくり会社と商工会青年部の方の対談でお互いに幼馴染だったのですが、復興にかける熱い思いや冊子には書き切れない復興の苦労話を興味深く聞くことができました。

今後の活動予定や抱負を聞かせてください。自分たちの活動を通じて、被災地や被災者へ、どんな“希望”を与えたいとお考えですか。

石巻は最大の犠牲者を出した被災地です。「ショックを受けた」「助けられた」というネガティブなことだけではなく、「挑戦が生まれている町」なのです。ボランティア活動をきっかけに石巻に魅了されて定住し、新たなことに挑戦する若者もいます。彼らが住む場所がないことがネックになっているので、「2.0不動産」というプロジェクトを立ち上げています。残っている民家を1、2年住める程度に改修するプロジェクト。外からの方々がおもしろく住めるようにつくっていきます。そして、新しいまちづくりに挑戦する若者の様子を情報公開し、住民の方々にもボランティアやNPO活動を理解してもらいたいと考えています。
少子高齢化、人口流出など、被災地の課題は日本の地方全体の課題でもあります。
ISHINOMAKI2.0が挑戦しているプロジェクトで成功事例をつくり、日本全体のモデルケースにしたいと思います。

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